大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ワ)15915号 判決

原告 山仁不動産株式会社

右代表者代表取締役 山田仁吉

右訴訟代理人弁護士 石黒康

被告 日王エンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役 町田徹

主文

一  被告は原告に対し、平成二年四月二四日から同年一〇月八日まで、一か月五〇万六六〇〇円の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、平成二年四月二四日から同年一〇月八日まで、一か月六五万一三〇四円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  (概要)

1  原告は、当初、担保権実行としての競売開始決定及び差押の登記がなされ、競売手続進行中の別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)を、その所有者である東北興産株式会社(以下、東北興産という。)から、平成元年四月一〇日買い受け(同月一三日登記)、その所有権を取得したとして、本件建物のうち、一階八二・七三平方メートル、二階八二・七三平方メートル合計一六五・四六平方メートル(以下、本件建物部分という。)を占有する被告に対し、主位的に所有権に基づき、予備的に被告の主張する占有権原としての賃借権は、本件建物部分の無断増改築もしくは賃料不払いによる信頼関係の破壊を理由とする解除により終了したとして、本件建物部分の明渡しと不法占有期間中の賃料相当損害金の支払いを求めていた。

2  その後、右競売手続は進行し、本件建物が売却され、原告がその買受人となつて、平成二年四月二四日、本件建物の所有権を取得した(同月二七日登記)。そこで、原告は被告に対し、本件建物部分について不動産引渡命令の申立てをし、右引渡を命ずる決定は、同年九月一三日確定した。

そこで、原告は、本訴における請求を減縮し、被告に対し本件建物部分の不法占有中の賃料相当損害金部分のみを請求することとし、原告が競売手続きにより本件建物部分の所有権を取得した平成二年四月二四日から、被告が本件建物部分を占有していた同年一〇月八日までの分の賃料相当損害金の支払いを求めたものである。

二  (前提となる事実)

1  本件建物はもと東北興産の所有であつた(争いがない)。

2  東北興産は、昭和六二年七月二一日、株式会社ホロンフアンドとの間で、本件建物について極度額一五億三〇〇〇万円の根抵当権を設定する旨の契約を締結し、同日、根抵当権設定登記をした(甲第一号証、乙第一二号証)。

3  東北興産は、同六三年一一月一八日、被告との間で、本件建物を期間一年間、賃料月額一一〇万円で賃貸する旨の賃貸借契約(以下、本件賃貸借契約という。)を締結した(乙第四号証)。

これが、被告の主張する本件建物部分の占有権原である。

4  平成元年一月二六日、本件建物について、株式会社ホロンフアンドを申立人とする競売開始決定がなされ、同月二七日、差押え登記がなされた(甲第一号証、乙第一二号証)。

5  原告は、平成二年四月二四日、競売による売却を原因として本件建物の所有権を取得し、同月二七日、その旨の所有権移転登記がされた(甲第一号証)。

6  被告は、平成二年四月二四日から同年一〇月八日まで本件建物部分を占有していた(弁論の全趣旨)。

三  (争点)

1  本件賃貸借契約は、右二記載のとおり抵当権設定登記後に締結された短期賃貸借であり、右契約の期間満了が本件建物の競売の差押え登記後に到来しているが、被告はこれをもつて買受人たる原告に対抗できるか。

被告は、本件建物部分の占有権原として、右賃貸借契約の法定更新を主張するものと解される。

2  本件賃貸借契約が終了した場合、平成二年四月二四日以降の本件建物部分の賃料相当損害金はいくらか。

第三争点に対する判断

一  争点1について

抵当権の設定された不動産の利用と抵当権者の利益とを妥当に調整しようとする民法三九五条の短期賃貸借の制度趣旨から考えると、民法三九五条の短期賃貸借においても、一般的には、借家法の適用はあるが、担保権実行による差押えの効力が生じた後に右賃貸借の期間が満了したような場合には、借家法二条の適用はなく、右賃貸借の法定更新をもつて抵当権者及び売却により建物所有権を取得した買受人に対抗できないと解するのが相当である。

そうすると、本件において、被告の本件賃貸借契約は本件建物の競売の差押え登記後である平成元年一一月一七日に期間が満了したが、その更新を抵当権者に対抗できず、同日期間満了により消滅したから、被告は、本件賃貸借契約の更新をもつて、買受人たる原告に対抗することもできない。したがつて、被告の本件建物部分の占有は平成元年一一月一八日以降正当な権原に基づかないものとなつたから、被告は原告に対し、原告が競売によつて本件建物の所有権を取得した平成二年四月二四日から賃料相当損害金を支払う義務がある。

二  争点2について

前記第二、二、3によれば、昭和六三年一一月一八日以降の本件建物の賃料が本件賃貸借契約において月額一一〇万円と定められていたこと、本件建物一階から五階までの総床面積は、三五九・二四平方メートルであり、原告が賃料相当損害金を請求する本件建物部分の床面積の合計は、一六五・四六平方メートルとなること(甲第一号証)などを総合考慮すると、本件建物の一、二階部分の相当賃料額としては、平成二年四月二四日以降、月額賃料を床面積に按分した一か月五〇万六六〇〇円(一〇〇円未満切捨て)と判断するのが相当である。

なお、原告は、本件建物がエレベーターのない五階建事務所ビルであることから、一階から五階までの階層別効用比率を、それぞれ一、〇・七、〇・五、〇・五、〇・五として、本件建物部分の賃料相当損害金を月額六五万一三〇四円と算出、主張しているが、右階層別効用比率は必ずしも充分な根拠に基づくものといえず、原告の主張する右金額をそのまま採用することはできない。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は主文第一項の限度で理由がある。

(裁判長裁判官 坂本慶一 裁判官 三木勇次 大澤晃)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例